オオシマアオハナムグリ(nippnoprotaetia)の亜種紹介です。オオシマアオハナムグリの亜種は9種存在しますが、今回は生息地を北から順番に並べ、順番に3種、口永良部亜種、諏訪瀬亜種、中之島亜種を紹介します。北部系という括りですが、学術的にそういった分類や単語が存在するわけではありません。単に私が記事分けの都合で勝手に呼称しているだけであり、他亜種との分類学上の相違等はありません。しかしながら今回紹介する3つの亜種と他の亜種では、形態や生息環境に若干の違いがあるように思えます。

0.北部系亜種の共通生態、形態など

今回紹介する3つの亜種はどれも鹿児島の活火山島に生息する。対して他の6亜種が生息する島において火山活動は見られない。北部系亜種の生息土壌には概して火山灰が入り混じっている一方で、南部系の亜種は粘土質の土壌に生息するという違いがある。また、関連性性は不明であるが、北部亜種は南部系と比べて大型化する、青色の色彩変異が存在する、累代が難しいなどの特徴がある。カラーバリエーション、造形、飼育の難易度、希少価値、どれをとっても国内最高峰と言っても過言ではない非常に魅力的なグループだ。(ちなみに私は本グループの記事を書くためにブログを始めた)
幼虫はシイ林の林床の落葉層(A0.)のさらに下部であるA層(堆積腐植物や細根、無機質土壌が入り混じる層)に生育する。

FullSizeRender
幼虫期間は1年半〜2年間前後と長く、かなり分解の進んだ貧栄養の餌をじっくり食べながら成長するようだ。秋〜冬にかけて羽化した成虫は休眠を経て翌年の初夏活動に至る。
オスは比較的細長い上翅を持ち全体のシルエットが長方形に近くなるが、反面メスの上翅は短く全体のシルエットはずんぐりむっくりな雫型になる。雌雄共に他種と比べて点刻が深く密に刻まれる傾向にあるが、オスの前胸は点刻が浅く上翅の点刻もメスと比較してまばら。メスは全身に極めて強く密に点刻が刻まれる。白紋についてもオスの方が発達する。要するに、オスの前胸はツルピカでメスは全体がザラザラ。基本的にオスの前胸は白く縁取られ、腹面にも白紋が入る傾向にある。この特徴はメスにも全く出ない訳ではないため、あくまで傾向。最後に、オスの触覚辺状部や脚部全体、フ節はメスと比較して発達、もしくは長くなる。メスの脚部は太短く、ケイ節に明瞭で幅広な外棘歯を3本揃える。上記の特徴からオスは華美で儚い印象を、メスは渋く強壮な印象を与える。脚部による雌雄判別は言語化すると曖昧に思えるかもしれないが、見慣れると脚を含めた全体の雰囲気で雌雄判別ができるようになるほど性別間で外見に差がある種だ。採集方法や飼育方法は原名亜種に準ずる為、本記事での説明は割愛する。

1.口永良部亜種

FullSizeRender

オス個体FullSizeRender
メス個体

和名:クチノエラブアオハナムグリ
学名:protaetia exasperata erabuana 
           Nomura1964
体長:22.0〜24.4mm
分布:口永良部島

形態:背面に鈍い金属光沢を有し、白紋は他亜種に比べて少なく不明瞭。雌雄共に点刻は他亜種に比べ非常に強く刻まれ、特にメスのものは顕著であるため、光沢が余計に鈍くうつる。オスは前胸の点刻が浅く、前胸辺縁部が白く縁取られる。体色のバリエーションは幅広く、鈍色や茶銅色を基色として緑銅色や藍銅色といった変異を呈する。これらの変異は胸部のみ、又は背面のみに現れる場合も少なくない(俗に言うツートンカラー)また、変異の比率は低くなく5頭に1頭程度混じるようだ。最大の特徴はその体躯にあり前亜種中で最も大型化する。光沢や鮮やかさと言う点では他種に劣るものの、点刻の強さや力強いボディが魅力的な種だ。

FullSizeRender
オス色彩変異

FullSizeRender
オス色彩変異

FullSizeRender
メス個体

FullSizeRender
メス色彩変異

FullSizeRender
メス色彩変異

FullSizeRender
メス色彩変異

生態:成虫は6月下旬〜7月上旬の限られた時期に発生するようだ。幼虫は勾配がなだらかなシイ林の火山灰混じりの林床に生育する。個体密度は非常に高く、大木の根元を掘れば必ず観察できると言っても差し支えないほど。これは大木に依存しているわけではなく、単にそのような環境に堆積物が溜まりやすく湿度が一定で保たれているからだと思われる。同島にはシロテンハナムグリ等も生息しているが、林内の林床は本種が占領している。ちなみにシロテンハナムグリは林縁や草原といった箇所に多く生息しており、明確な棲み分けが成されている。

2.諏訪瀬亜種

FullSizeRender
FullSizeRender
FullSizeRender
(上記個体は全て累代品)ガバ纏ガバ画像申し訳ナス

和名:スワノセアオハナムグリ
学名:protaetia exasperata suwanoseana
           Nomura 1964
体長:19.6〜23.0mm
分布:諏訪之瀬島、悪石島
形態:雌雄共に白紋がほとんど消失する亜種。
体躯は口永良部亜種よりやや小型化するが、点刻は同程度に濃い。体色は深緑色を基調としており、これは同所的に生息するアクセキツヤハナムグリのものと重なる。色彩変異としては個体差の範疇で掲載画像のように桃銅色が重なったり、変異として全身紫銅色、藍銅色の変異が存在するようだ。

生態:アクセキツヤの生息しない諏訪瀬島における本種の発生ピークは6月中旬である一方、アクセキツヤの生息する悪石島ではツヤのピークである6月下旬と本種の発生ピークが被る。バナナトラップやタブ、シイ樹液等から得られる。諏訪瀬には広大なシイ林が広がっているが悪石島での発生源は限られているものと思われる。

3.中之島亜種

pc治り次第メス画像追加予定
FullSizeRender
FullSizeRender
FullSizeRender
(画像個体は全て累代品)
和名:トカラアオハナムグリ
学名:protaetia exasperata nakana
           (Nakane1956)
体長:19.0〜22.9mm
分布:口之島、中之島、平島

形態:筆者の贔屓目マシマシで語ると、間違いなく国内最美麗種。生息地から察していただければと思うが、ノコギリといいコクワといいつくづく我々は不遇な身の上にあるらしい。上記2種と比べるとやや小型になるが、南方亜種と比較すると大型になる。オスの点刻は他亜種と比べかなり薄く従って光沢も強くなる。オスの白点が発達しやすく、前胸の白紋出現率が高いのも本種の特徴だ。メスは例の如く深い点刻が刻まれる他、上翅に若干の微毛を有する。色調は主に2種類で、掲載画像の通り鮮やかな緑と藍色の個体に大別される。青藍色の個体は偶発的な変異ではなく、割合としては2頭に1頭は得られる程度。青藍色の個体群にはtsujimotoiという型名が付けられている。色彩変異としてはイシガキシロテンのような緑銅色と赤褐銅色が入り混じる個体が存在する。中には青、緑、赤三つを備える個体も。

生態:山間部よりも平地や集落周辺に多いようだ。これは山間部では移入のヤギが下草を食い尽くし、土壌が過剰に乾燥することが理由と思われる。逆に標高を上げるとヤギも減る為本種が得られるようになる。発生ピークは6月下旬〜梅雨明けと短いが、個体数は少なくなく、各種樹液やバナナトラップで得ることができる。